歌集読書会「渚」について

歌集読書会「渚(なぎさ)」では、参加者全員が安心して読書会を楽しむことができるよう、下記のルールを定めております。大切なことですので、必ず事前にお読みいただくようお願いいたします。 〈開催ポリシー〉 性別、年齢、歌歴問わず、どなたでもご参加…

歌会「汀」について

歌会「汀(みぎわ)」では、参加者全員が安心して歌会を楽しむことができるよう、下記のルールを定めております。大切なことですので、必ず事前にお読みいただくようお願いいたします。 〈開催ポリシー〉 性別、年齢、歌歴問わず、どなたでもご参加いただけ…

青松輝一首評 連作「痛みについて」より

Things Go Better With Coke. 埋没の二重瞼を見せてもらった 音楽にはまったく疎くて知らなかったのだが、調べたところ「Things Go Better With Coke」というのは、コカ・コーラの販促目的でイギリスの「The Who」というロックバンドがつくったCMソングらし…

魚村晋太郎を読む -『銀耳』-

読み終えたときにため息が出た歌集だった。評を書くのも無粋に感じるような澄んだ歌ばかりで、ことし手に取った歌集のなかではトップレベルによかったと思う。 北辺に逐ひやらはれてしづまるかウラニウムの神プルトニウムの神/『ウランと白鳥』 モノレール終…

飯田有子を読む -『林檎貫通式』-

のしかかる腕がつぎつぎ現れて永遠に馬跳びの馬でいる夢 負けたとは思ってないわシャツはだけかさぶたみたいな乳首曝しても 駈けてゆけバージンロードを晴ればれと羽根付き生理ナプキンつけて 「のしかかる」のは誰で、「負かした」のは誰なのか。なぜわざわ…

北山あさひを読む -『崖にて』-

今クールから再び放送されている呪術廻戦を見ているのだが、五条役の中村悠一の芝居がどうも鼻につく。音響監督のディレクションなのかわからないが、こういうのが好きなんだろ的な視聴者への目配せを感じて、うっ…とキツくなってしまう。 残高の十八円がほ…

短歌の話(10/2) 

ここのところ本を読みすぎてなんの本を読んだのか、まだ記事を書いていない本はどれかを忘れそうになっているので、備忘のため書き出します(太字はブログに書いたもの)。 〈歌集〉 土岐友浩『僕はいくよ』 永井祐『広い世界と2や8や7』 川野芽生『Lilit…

安田茜を読む -『結晶質』-

雪山を裂いて列車がゆくようにわたしがわたしの王であること 短歌を始めたばかりの頃に出会って、ずっとお守りみたいにしていた歌だった。この歌のおかげでわたしは去年を生き延びられたし、この歌のおかげで、わたしはわたしが短歌を通じてなにをやりたいの…

川野芽生を読む -『Lilith』-

アヴァロンへアーサー王をいくたびも送る風あり千の叙事詩に 「現代短歌」No.86の「Anthology of 60 Tanka Poets born after 1990」でこの歌を見つけたときは衝撃だった。この歌に出会っていなかったら、たぶん『Lilith』を手に取るのはもっと先になっていた…

永井亘を読む -『空間における殺人の再現』-

メリーゴーランドは破綻した馬を雇い不自然だがどこか微笑ましい 数はどんな数でも数え 飛行機と砂漠は夏を偶然にする この海が紅茶に沈みこの舟も角砂糖のように溶けるから海だ 錆びついた翼を嫌う天使たち歴史のように海まで歩く 見える手を見えない手まで…

我妻俊樹を読む -『カメラは光ることをやめて触った』-

水を飲むのは投函だから物音をおぼえきれないほど聞き取った どの人生もCMだろう空蝉の背に吸われゆく小さなジングル 車の屋根を歩いて海へ出るような世界の果ての秋の渋滞 ぬいぐるみ自撮りアイコン大量凍結 新目白通りの事故車両 メーターの針はくすぐるだ…

橋爪志保を読む -『地上絵』-

歌集の特徴を把握するうえでのとっかかりにするため、最近は、歌集を読んでいる際に感じたことをその都度メモに残すようにしている。『地上絵』を読んだときのメモを見返すと、不健康、不穏、不気味、不器用と不のつく言葉が目立つ。装画はずいぶん可愛らし…

山崎聡子を読む -『てのひらの花火』『青い舌』-

先日、山崎聡子の既刊歌集『てのひらの花火』『青い舌』の両方を読み終えた。第一歌集から第二歌集にかけて、とても正統な進化を遂げた歌人だと感じた。 絵の具くさい友のあたまを抱くときにわたしにもっとも遠いよ死後は/『てのひらの花火』 クレヨンに似た…

青松輝一首評 -歌集『4』帯の歌-

いたる所で同じ映画をやっているその東京でもういちど会う/「複数性について」 青松はいつも否定を背負っているし、いつも同じことを言っていると思う。 何かを書くこと自体がすでに間違いのはじまりであるにもかかわらず何かを書かないとどうしようもないと…

乾遥香連作評 -新作「ガールクラッシュ」-

文藝春秋10月号(p81)に掲載の乾遥香の新作「ガールクラッシュ」(7首連作)を読んだ。 「ガールクラッシュ」とは、調べたところ「同性にも衝撃を与えるほど魅力的な女性」のことらしい。乾がこれまでつけてきた連作タイトルのなかでは女性性が強くあらわ…

乾遥香歌人評 -ひとりの輪郭-

乾は女で、フェミニストだ。しかし乾は、フェミニズムを明確に押し出した短歌をあまりつくらない※1。つくらないこと、それ自体はなんの問題もない。ある事柄について抱えている問題意識を、短歌という形で出力するかしないかは個人の自由であり、また、短歌…

短歌の話(9/3〜10)

去年の夏ごろ、ねむらない樹vol.8(第四回笹井宏之賞発表号)を買った。わたしはその年の春から短歌に触れはじめたので、新人賞の発表号を読むのはそれが初めてだった。そこで紙面に掲載されていた作品は最終選考通過作も含めてだいたい読んだのだけど、佐原…

青松輝一首評 -歌集『4』「4」の歌-

数字しかわからなくなった恋人が桜の花を見る たぶん4 歌集『4』に収録の連作「days and nights」なかの一首。さきほど、Twitter(現X)で「数字 恋人 たぶん4」と検索したところ、「数字 恋人 たぶん4の検索結果はありません」と表示された。この歌につ…

小島なお連作評 -『展開図』「流氷」「ペンキ」-

先日、小島なおの第三歌集『展開図』を読み終えた。そのなかで、とりわけ印象的だった連作を2つ取り上げる。 「流氷」 祖父との死別を描いた連作。 命終わる白いベッドに集まれる家族は古い帆船として 古い帆船、という把握にどこかあたたかみを感じる。帆…

短歌の話(8/28〜9/3)

今週末は、短歌研究のバックナンバーを読みすすめた。おもしろかった企画・連作についていくつか言及します。 座談会「現代短歌史と私たち」 「短歌研究」2021年11月号 大森 (前略)自分で歌を作っているときの実感からして、口語で、特に新仮名の口語で怒…

短歌の話(8/21〜27)

・岡井隆『鉄の蜜蜂』を読んだ。岡井は難しいイメージが強かったけれど、皇室行事に関する連作などはゴシップ感覚でたのしく読めた。 明日着るモーニング提げて352までうす暗きカーペット踏む/「東京駅ホテルに泊り皇居の年賀の儀に列するまで、即事」 ル…

小島なお連作評 -100首連作「両手をあげて、夏へ」-

「両手をあげて、夏へ」は、2021年8月号の短歌研究に掲載された100首連作。章立てなどはなく、100首の歌が区切れなくそのまま並べられている。 小島の既発表作のなかでは比較的読み解くのに苦労するが、小島なおという歌人へのイメージの塗り替え…

短歌の話(2023年上半期)

・週末に歌壇賞と角川短歌賞のバックナンバーを図書館で読んだ。歌壇賞については、平岡直子や服部真里子、川野芽生を除いて、(自分の不勉強で)名前も作風も知らない人ばかりだったので、ああ〜こんな人たちがいるんだなあと勉強になった。印象に残ったの…