2023-09-01から1ヶ月間の記事一覧
雪山を裂いて列車がゆくようにわたしがわたしの王であること 短歌を始めたばかりの頃に出会って、ずっとお守りみたいにしていた歌だった。この歌のおかげでわたしは去年を生き延びられたし、この歌のおかげで、わたしはわたしが短歌を通じてなにをやりたいの…
アヴァロンへアーサー王をいくたびも送る風あり千の叙事詩に 「現代短歌」No.86の「Anthology of 60 Tanka Poets born after 1990」でこの歌を見つけたときは衝撃だった。この歌に出会っていなかったら、たぶん『Lilith』を手に取るのはもっと先になっていた…
メリーゴーランドは破綻した馬を雇い不自然だがどこか微笑ましい 数はどんな数でも数え 飛行機と砂漠は夏を偶然にする この海が紅茶に沈みこの舟も角砂糖のように溶けるから海だ 錆びついた翼を嫌う天使たち歴史のように海まで歩く 見える手を見えない手まで…
水を飲むのは投函だから物音をおぼえきれないほど聞き取った どの人生もCMだろう空蝉の背に吸われゆく小さなジングル 車の屋根を歩いて海へ出るような世界の果ての秋の渋滞 ぬいぐるみ自撮りアイコン大量凍結 新目白通りの事故車両 メーターの針はくすぐるだ…
歌集の特徴を把握するうえでのとっかかりにするため、最近は、歌集を読んでいる際に感じたことをその都度メモに残すようにしている。『地上絵』を読んだときのメモを見返すと、不健康、不穏、不気味、不器用と不のつく言葉が目立つ。装画はずいぶん可愛らし…
先日、山崎聡子の既刊歌集『てのひらの花火』『青い舌』の両方を読み終えた。第一歌集から第二歌集にかけて、とても正統な進化を遂げた歌人だと感じた。 絵の具くさい友のあたまを抱くときにわたしにもっとも遠いよ死後は/『てのひらの花火』 クレヨンに似た…
いたる所で同じ映画をやっているその東京でもういちど会う/「複数性について」 青松はいつも否定を背負っているし、いつも同じことを言っていると思う。 何かを書くこと自体がすでに間違いのはじまりであるにもかかわらず何かを書かないとどうしようもないと…
文藝春秋10月号(p81)に掲載の乾遥香の新作「ガールクラッシュ」(7首連作)を読んだ。 「ガールクラッシュ」とは、調べたところ「同性にも衝撃を与えるほど魅力的な女性」のことらしい。乾がこれまでつけてきた連作タイトルのなかでは女性性が強くあらわ…
乾は女で、フェミニストだ。しかし乾は、フェミニズムを明確に押し出した短歌をあまりつくらない※1。つくらないこと、それ自体はなんの問題もない。ある事柄について抱えている問題意識を、短歌という形で出力するかしないかは個人の自由であり、また、短歌…
去年の夏ごろ、ねむらない樹vol.8(第四回笹井宏之賞発表号)を買った。わたしはその年の春から短歌に触れはじめたので、新人賞の発表号を読むのはそれが初めてだった。そこで紙面に掲載されていた作品は最終選考通過作も含めてだいたい読んだのだけど、佐原…
数字しかわからなくなった恋人が桜の花を見る たぶん4 歌集『4』に収録の連作「days and nights」なかの一首。さきほど、Twitter(現X)で「数字 恋人 たぶん4」と検索したところ、「数字 恋人 たぶん4の検索結果はありません」と表示された。この歌につ…
先日、小島なおの第三歌集『展開図』を読み終えた。そのなかで、とりわけ印象的だった連作を2つ取り上げる。 「流氷」 祖父との死別を描いた連作。 命終わる白いベッドに集まれる家族は古い帆船として 古い帆船、という把握にどこかあたたかみを感じる。帆…
今週末は、短歌研究のバックナンバーを読みすすめた。おもしろかった企画・連作についていくつか言及します。 座談会「現代短歌史と私たち」 「短歌研究」2021年11月号 大森 (前略)自分で歌を作っているときの実感からして、口語で、特に新仮名の口語で怒…