青松輝一首評 連作「痛みについて」より

Things Go Better With Coke. 埋没の二重瞼を見せてもらった

 音楽にはまったく疎くて知らなかったのだが、調べたところ「Things Go Better With Coke」というのは、コカ・コーラの販促目的でイギリスの「The Who」というロックバンドがつくったCMソングらしい。

Things Go Better With Coke - YouTube

 公式と思われるバンドのYoutubeアカウントに曲がアップされていたので聞いてみたところ、

Things Go Better With Coke 

Coca-Cola

Things Go Better With Coke 

しか歌詞がない、30秒程度のみじかい曲だった。ほんとうにCMのためだけにつくられたようだ。

 「Things Go Better With Coke.」について、何音で読むのがいいんだろうと思う。「しんぐすごお(6音)」「べたあうぃずこおく(8音)」?でも、曲を聞いてみると、「Things」の「s」 Cokeの「ke」は発声されていない。なので、「しんぐごお(5音)」「べたあうぃずこお(7音)」と読んだほうがいいのか?でも、英語が織り込まれている歌を読むときにいちいちそんな本場っぽい読み方しないよな…とも思う。あいだをとって、わたしは「しんぐごー(5.5音)」「べたーうぃずこー(7.5音)と読む(たぶん音数に小数点の概念はないだろうが…)。

i c a n s e e y o u . たばこから煙はあがりすべてが火とともに壊れていく

愛のWAVE 光のFAKE どうしよう、とりあえず、生きていてもらってもいいですか?

I can't remember a passcode for my private Google account.

 『4』には、英語を織り交ぜた歌が頻出する。すべて大文字なこともあれば、すべて小文字なことも、頭文字だけ大文字なこともある。とにかく英語が好きだし、表記も、醸したいニュアンスによってこだわりをもって選択されているように感じる。

Things Go Better With Coke. 埋没の二重瞼を見せてもらった

THINGS GO BETTER WITH COKE. 埋没の二重瞼を見せてもらった ※本記事用に作成

 冒頭で掲出した歌について、表記ごとに見比べてみる。個人的に、字余りは小文字と相性がいいと思う。規定の音数をはみ出すことによって生じるたるみが、小文字のつっぱらない感じとかけあわさって、歌に後味が生まれている。前者と後者で選ぶなら、断然前者だと思う。

性行為を演技しているきみの世界・世界にあるすべてのペプシ

球場に、神社に、飛行機に、わたしに、日本のアメリカのCoca-Cola

 『4』には、ほかにもコーラの歌がでてくる。おそらく、炭酸のしゅわしゅわした爽やかさを加えて、予定調和を壊す目的で取り入れられているのだと思う。いちばん最初に掲出した歌も、「埋没の二重瞼を見せてもらった」という重く感じさせられる事実が、「Things Go Better With Coke.」で相殺されてライトな感じになっている。

火花放電 僕に子供が生まれてもネーミング・ライツは買わなくていい

チェーンソーで車を切るときの火花の花散るさみしいココロのラッシュ

 これらの歌の「火花放電」とか「ラッシュ」とかもコーラ的なもの?として捉えてもいいのかなと思う。(全然脱線するけど、ネーミングライツにもまたナカグロ使ってる…)

 歌の内容についても言及しておく。「埋没の二重瞼を見せてもらった」という事実の裏には、作中主体と見せてくれた相手が親密な間柄であること、埋没をしたというカミングアウトが見せてもらう前にあったであろうことを想像させる。

 前述したように、わたしはこの事実にちょっと重みを感じるのだが、10代後半くらいの女の子が読んだら、あまりそんな感じはしないのかもしれない(最近の若い女性は整形に関して深刻なことと捉えていない、みたいな記事を前に読んだ気がする)。逆に、40代以上の人が読んだら、そもそも埋没とはなんぞや?となる気もしていて、読み手の写し鏡にもなる歌だと思う。

 「Things Go Better With Coke. 」については、結局どう捉えるのがいいのだろう。わざわざピリオドがついていることから、作中主体の台詞と捉えてもいいのかもしれない。台詞と捉えた場合、この台詞は、二重瞼を見せてもらう前なのか、後なのか。おそらく後と読むほうが正しい気がするけど、二重瞼を見せてもらったあとに、「コーラで何事も上手くいく」という返しはおかしい。もしかしてそういうジョークなの…か…?